日本を愛したスティーブ・ジョブズ
故スティーブ・ジョブズ氏が日本の禅に傾倒していたことはよく知られていますが、日本文化や和食にも深く心酔していたことは意外に知られていません。日本がジョブズの人物像、アップルという会社を作り上げるのにどんな影響を与えたのか。米国のApple Insiderが、nippon.comに寄せられたフリージャーナリストの林信行氏の記事を参考に紹介しております。
林氏は長年、アップルの動向を追う仕事をされ、ジョブズの波乱万丈の生涯において、日本が彼に与えた影響について詳述しています。
初めてジョブズが日本と遭遇するのは、まず禅宗の発見からでした。自分探しのインド旅行など精神的な紆余曲折を経て、ジョブズは地元カリフォルニアにあった禅センターに通うようになりました。そこで曹洞宗の乙川弘文という僧侶と出会い、ジョブズは彼に深く心酔します。そして人生の師匠となった乙川氏を、1985年にはNeXT社の精神的アドバイザーとして迎え入れます。
禅はジョブズに深い影響を与えました。独特の美意識、審美的なライフスタイル、禅宗の「質素・簡素」を追及する姿勢などです。他にドイツのバウハウスの影響もあり、アップル製品のミニマリスト系スタイルとして結実します。ジョニー・アイブはアップル製品のデザイナーのリーダーで今もそうですが、どんなデザインであれ最終的にゴーサインを出すのはいつもジョブズでした。
ジョブズが日本の影響を受けたのは、禅のストイックな美意識だけではありませんでした。アップルの先進的な製品を生み出す上で、日本の家電メーカーソニーの共同創業者である盛田昭夫氏から薫陶を受ける経験がありました。ソニーのトランジスターラジオ、トリニトロンTVなどに、ジョブズは驚喜したとされています。
また、ジョブズのトレードマークである、黒のタートルネックの上着とジーンズは、ソニーの従業員の制服を模したものでした。デザイナーの三宅一生氏は数百の上着を受注し、ジョブズは生涯それを着用しました。
仕事外では、ジョブズは京都旅行をしたり、和食を大いに楽しみました。ジョブズは完全菜食主義者でしたが、寿司と蕎麦は例外でした。アップル社の社員食堂Cafe Macのシェフを築地そばアカデミーに行かせ、蕎麦作りを学ばせました。またジョブズは「刺身そば」なるメニューを考案することさえしました。
ジョブズは、米国にある和食料理店にも頻繁に出入りしました。シリコンバレーにある寿司屋「陣匠」や、寿司と懐石の「桂月」の常連でした。これらの店は、晩年の彼のお気に入りとなり、ジョブズがこの世を去った2011年10月5日に近い日、死期を悟った彼は、親しい友人や家族とお別れ会を開いたこともあったそうです。
しかし「桂月」は、ジョブズの死後二日後に店仕舞い。桂月は同年、売却するか閉店するかが決まっていたのですが、生前のジョブズの計らいにより、その後、店長であり調理師の佐久間俊雄氏は、なんとアップル社の社員食堂で働くようになりました。佐久間氏が腕をふるうジョブズの好物料理の数々が、アップル社の社員への最後のお土産となりました。
ジョブズと日本に関しては良い話が多く、日本の土産物屋で買った手裏剣を税関で没収されたなど微笑ましいエピソードもありましたね。